約一ヶ月前。
ずっと好きだった男の子に告白された。

クラスも部活も同じで、毎日のように一緒にいたけれど。

冗談を言い合ったり、からかい合ったり・・・。

仲のいい友達という関係がピッタリ当てはまる2人だったから。
向こうが私の事を好きだなんて思ってもみなかった。




「・・・冗談でしょ?」

可愛くないことに・・・。
告白されて頭が真っ白になってしまった私の第一声がそれだった。


真面目な顔をしていた彼の顔が歪む。

「冗談でこんなこと言えるかよ。」

視線をそらすと不貞腐れた様に呟いた。

「だって・・・そんなそぶり少しも見せなかったから。私、てっきり・・・。
どうしよう。」

「・・・・・泣くほど嫌なのか?」

嬉しさのあまりに涙が溢れてきた私の表情を見て、勘違いした彼が慌てる。

「ちがっ!!・・・嬉しくて。」

首を横に振りながら涙を拭って言うと、彼がホッとしたような表情を浮かべる。

「じゃぁ、俺とつき合う?」

その言葉に大きく頷くと、彼は私の大好きな笑顔を見せてくれた。




何をしていても口元が緩んでしまうほど幸せいっぱい。

なんだけれど・・・・。
たった一つだけ、気にしている事がある。

同じクラスで同じ部活。
毎日のように会えるし、一緒にいられて凄く嬉しい。



でも私達、一ヶ月前と何が変わったの?












部活が終わり、片付けは一年生に任せると更衣室へ向かう。

強豪サッカー部のマネージャーという光栄な役割をこなすには、それに見合う仕事
をこなさなければならない。

頑張っている選手達の少しでも役に立とうと、どんな雑務でも引き受けて動き回っ
ていたので、部活が終わると、急に気だるさが襲ってくる。



ぐっと伸びをしながら歩いていると、後ろから声をかけられた。

「あ、関矢!」

その声に振り向くと、隣のクラスの山田君が小走りで横に来る。

「部活、今終わったの?」

「うん。バレー部も?こんな時間まで、いるなんて珍しいよね?」

「まぁな。うちはサッカー部ほど強くないし、普段はこんな時間までやらないけど
もうすぐ新人戦があるからさ。大きな大会はあと2回しかないし、出来るだけ勝ち
進みたいからな!」



県内では敵なしと言われるほどのサッカー部に比べると、バレー部の成績はパッと
しない。
そのせいか、グランドに設置されたライトの下で夜の9時近くまで練習しているサ
ッカー部に比べ、いつもならバレー部は7時過ぎにはとっくに練習を終えている。


引退の時期も、サッカー部は秋から冬の間で引退する選手がほとんどだが、他の部
では春過ぎから夏の間で引退する。

インターハイどころか県大会にも勝ち進めなければ、5月中には引退が決定してし
まうのだ。




「そっか。どの部もみんな必死なんだよね!私もマネージャー業頑張って、少しで
もみんなの力になれるようにしなきゃ!!」

胸の前で両手を握り締めて気合を入れると、山田君が微笑んだ。

「関矢みたいなマネージャーがいて、サッカー部は幸せだな。バレー部に入ってく
れればよかったのに。」

「バレーかぁ。嫌いじゃないけど・・・サッカーは特別なの。」

「ふ〜ん。よっぽど、サッカーが好きなんだな。」

「・・・・うん、まぁね。」



嘘はついていない。
中学の頃からサッカーは大好きだ。



「だよなぁ。しょうがないか。・・・それより、もう着替えて帰るだけ?」

「うん。もうミーティングもしたし。」

何でそんな事を聞かれるのか疑問に思いながらも答える。

「あー・・・だったら、同じ方向だし。駅まで・・・。」


山田君が視線を逸らしながら言い掛けた言葉を、最後まで聞く前に後ろから頭を軽
く叩かれた。



何事かと思って振り返ると、そこには少し機嫌が悪そうな顔をした歩がいた。


「明日は珍しく休みになったから。これから2年のやつらでファミレス行って飯食
ってから帰ろうって話が出てるけど、どうする?」

「祐希も行くの?」

同じマネージャーをしている真部祐希がいなければ女子は一人になってしまう。
男ばかりの部活にいるのだから、今では気にならなくなったが、それでも一人より
は2人の方がいい。


「さぁ・・・でもあいつは来るんじゃねぇの?いつもいるし。おまえん家の方が親
厳しいだろ。時間ヤバイなら今回は止めとくか?」


確かに帰りが遅くなると親はいい顔をしないが、厳しいという程ではない。
携帯で連絡を入れとけば問題はないだろう。


それに・・・。


「歩は行くんでしょ?」

「俺はどっちでもいい。」

機嫌がよくないらしい歩は素っ気なく答える。





「・・・・じゃぁ行く。」

「そうか。・・・みんなは先行ってるらしいから、お前は着替えたら部室来いよ。
俺も監督のとこ行ったらすぐ部室に戻るから。」

「え?!先に行っちゃったの?・・・少しくらい待っててくれてもいいのに。」


溜息をついて言うと、歩が呆れ顔をして呟く。

「あいつらは気ィつかったつもりなんじゃねぇの?」


「え?」

歩が何を言ったのか聞き取れなくて首を傾けるが、歩は少し笑うだけだった。

「じゃ。さっさと着替えて部室来いよ。」

私の肩を軽く叩くと、横を通り過ぎて行く。





歩に触れられて、高鳴る胸を落ち着かせようと無意識に胸を押さえる。




そして、ようやく隣にいた山田君と話が途中だったことを思い出す。

「あ、話の途中だったよね?えっと・・・なんの話だったっけ?」

「え?!あ、別にたいした話じゃないから。」

「でも・・・?」

「いや、いいんだ。じゃ、またな。」

「あ、うん。またね・・・??」




不自然なほど慌てて帰っていく山田君を、どうしたんだろうと首を傾げて見送ると
今度は笑う声が聞こえてきた。



声のする方へ視線を送ると、片づけを終えたらしい後輩の滝川康広と飯田留美の2
人が並んでたっている。


「関矢先輩、鈍すぎ!歩さんも苦労するんだろうなぁ。」

康広は同情するかのように、溜息をついた。

「ん〜でも、桃先輩はそこが可愛いいの!御堂先輩だってそう思ってるはずだし。」

留美は楽しくてしかたない様子で、はしゃいでいる。

「そうかもね。でも、さっきのバレー部の先輩は可哀想〜。めっちゃ怖がってた
じゃん。」

「御堂先輩って、自分のものに手を出すのは許さないって性格だもんね。」

「そうそう。キープしたボールは絶対誰にも奪わせない、天才MFだからさ。私生
活でもそ〜なんじゃない?サッカーのプレーに性格が表れるって言うし!」

「うっわ〜、桃先輩は一生逃げられないね。御堂先輩って一度好きになったら嫌い
にならない性格だって、詩織も言ってたし。」



そして2人そろって、ちっとも怖がっていない様子で「「こわ〜。」」と騒いで笑
っている。


2人が何のことを言っているのか分からない。

けれども確実に自分達の話をされているので、2人の話が気になって動く気にはな
れず、その場で首を傾げていると、いつの間にか戻ってきた歩が横に立っていた。




「随分楽しそうな話をしてるな。・・・そんなに元気が有り余ってるなら、明日の
休みは俺が遊んでやろうか?」

歩の言葉に、2人はピタリと動きを止めると、慌てて首を振る。



「「結構です!!!」


声をそろえて言うと、双子のようにピタリとあった動きで走り去っていった。











それを見送ると、呆れ顔をした歩と目が合う。

「・・・で?お前は何やってんだよ?」

「え?」

「さっさと着替えろって言ったろ。俺はもう部室の荷物持ったら帰れるんだけど?」

「あ、ごめん!!急いで着替えるから!!」

「ったく。早くしろよ。」

「うん!」







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