貴方だけ・・・永遠に愛してる

だから、どうか信じて待っていて

何処にいても、私の想いは必ず貴方に届くから

私は絶対に貴方の元に戻ってくる






The poetry of the melodious voice of the dream
--- one ---

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まただ。


またあの夢だ。


眠っているはずなのに、起きている様な不思議な感覚。
意識がはっきりしている様な感じなのだ。


だから思った。またあの夢を見ている、と。








その夢はとても不思議な夢だ。
不気味だけど、何故か幸せな気持ちになり、だんだん頭の中がぼんやりとして
心が温かくなるような、ふわふわしているような感覚になっていく。
次第に視界がはっきりしてくると、暗闇の中に一ヶ所だけスポットライトを
浴びているように明るい。


そこには扉しかない。


そして何処からか、綺麗な優しい声が聞こえてくる。
周りは扉以外、暗闇で何も見えず、気配もしないと・・・・思う。
しかし、何処からか女性の声が聞こえてくるのだ。
自分で女神の声と名付けたその声は、しきりに扉を開けと誘う。




「こちらにいらっしゃい。私に会いにきて。さぁ。恐れないで、扉を開きなさい。」




幸せな感覚で熱に浮かされたかのように、ぼんやりとした頭で、ゆっくり扉に近寄る。
僅かに残った理性がダメだと警鐘を鳴らすが、それすら意識の外に追い出して
扉の取っ手を掴もうと手を伸ばす。





「やめろ!!!ダメだ!それに触れるな!!」





突然男の人の声が頭に響き、一気に意識がクリアになった。



そして、ハッとしたときには目が覚めて、自分のベットで起き上がっていた。
全身からは汗が噴出し、息も上がっている。
体中がだるくて、とても寝ていたとは思えない。
悪夢を見ていた、と思うには体がだる過ぎる気もする。


何より、途中までは幸せな気分だったのだ。
今思うと不気味な夢で、不気味な感覚だったには違いないが、夢では幸せだと
感じていたし、怖い想いはしていない。
なのに、なぜか震えが止まらない。
そして、なによりも、あの夢を見始めて今日でちょうど一週間になる
と言うことが怖かった。
今まで毎夜、悪夢にうなされるという経験などした事がなかったし
そして、その原因が分からない。


来週は体育祭もあるし、体力つけなきゃならないのに、寝不足じゃ困る。


少し、頓珍漢なことを考えて布団から出る。
今日は日直でいつもより、早く行かなきゃならないし
どうせなら起きてしまおうと思ったのだ。


時刻はまだ5時でかなり早いが、シャワーを浴びてのんびり着替えれば6時前になる
それからのんびり朝ごはんでも食べて、7じ過ぎに家を出よう。
頭の中で、予定を立てると、一つ伸びをして部屋をでた。










「おはよう、桔梗!」

「おはよ。ゆーちゃんは朝練?頑張ってね。」

「おお、神野が珍しく早いじゃん!」

「あんたに言われたくない。部活ない日は寝坊魔のくせに!」


いつもより、30分は早く学校に着き、朝練をしている運動部の友達に
挨拶をしながら職員室に向かい
日誌と教室の鍵を受け取り、今度は教室に向かう。

朝の教室は、静まりかえっているが、夜と違って凛とした空気は爽やかに感じられ
不気味な感じはせず、むしろ気持ちよく感じられた。
教室の鍵を開け、窓を開き、廊下と教室の間の窓と、廊下の窓を開き
風の通り道を作ると、涼しい風が頬を撫でた。




幸せな気分で日誌を開き、今日の予定を書き込んでいると
突然教室に人が入ってきた。

こんな早くに誰が?!と驚きながら、視線を送る。




この春に転校してきた、転校生ジャスティ・フェンリスだった。


どこから来たか忘れてしまったが、異国人で、やや長めの赤毛、深い緑色の瞳で
色白で背が高い美形な男の子だ。
頭もよくて日本語もペラぺラで、初日からクラスに大変馴染んでいた。
おまけに運動神経も抜群で、スポーツテストでは去年の最高記録を塗り替えてしまい
運動部から熱烈なラブコールを受けている。
がしかし、体はあまり丈夫でないらしく、それを理由に部活には参加せず。
たびたび学校も休むくらいだ。
けれど誰にでも優しいとなれば、当然学校中の人気者。


女子の間では“異国の王子様”と呼ばれて、校内にファンクラブに近いもの
もあるし、頻繁にいろいろな女生徒達に呼び出されている。



なら男子に嫌われるのかといったら、そうでもなく。
気さくで明るい性格の為、人気者だ。
昼休みには、みんなでサッカーやらバスケやらと借り出されている。


そんな人気者の彼だが、桔梗は不思議と苦手だった。
なぜか彼を前にすると、懐かしいような、暖かくて苦しい気持ちが心を揺らすのだ。
恋だとか、そう言った感情とは違う気がする。
桔梗だって、もう高校2年生なのだ。
人並みに恋は経験している。

初恋で、憧れみたいな幼い恋だったけれど・・・・。



それでも、恋だった。
しかし、ジャスティに対する気持ちは、あんな甘い物じゃない。
切なく苦しい、焦燥感、なのに懐かしい変な感覚なのだ。
とにかく胸がザワザワしていて、気持ちが不安定になって
あまりいい気がしない。だから、近寄らないようにしていたのだ。






けれども、こうして二人きりで、教室で目が合ってしまっては挨拶もしない
というのは礼儀としてどうなのか。
そう思い、とりあえず軽く挨拶をしてみる。

断じて彼が嫌いなわけではないのだから。





「・・・・おはよう。朝、早いのね。」

「おはよう。今日は何となく目が覚めちゃったんだ。」

ニコリと微笑んで、挨拶をするジャスティ。
これが噂の王子様スマイルか・・・・こんな綺麗な顔に微笑まれたら
騒ぎたくなる女生徒達の気持ちは分からなくもない。
そんな事をぼんやり考えていると、いつの間にか傍に寄って来ていたジャスティに
声をかけられる。

「キキョーは寝不足なのか?」

いきなり声をかけられ呼び捨てだったこと、むしろ名前知ってた事にすら驚く。
そして、その内容にも驚いてとっさには、言葉が出なかった。
しかし、彼の気さくさを考えれば、この状況で声をかけられるのは不思議じゃ
ないし、異国人はファーストネームで呼び合うのが普通だし
(今時、日本人も親しければファーストネームで呼び合うのだし)
寝不足だと気がついた、理由は謎だが、隠すことでもないので素直に
「そうなの。」と頷く。


「なら、おまじないをしてあげる。」


この歳でおまじないを信じる人がいるんだ。(しかも男!)
なんて偏見が頭を掠めたが、きっと純粋な心を持ってるんだ。
と無理やり納得し、何も言わずに首を傾けてジャスティを見上げた。

彼は座っている桔梗の額に右手を合わせると、呟くように異国語で呪文を唱える。

「アメトイナフッシュラ フェンリル!」

そのとき不思議なことが起こった。
桔梗の耳には聞きなれないはずの異国語が、なぜか理解できたのだ。
間違いなくジャスティは『夢を守って下さい フェンリル!』と願っているように
聞こえたのである。

そして何より、“フェンリル”という言葉が心に響く。
そして、すべてが懐かしく感じられるのだ。
言葉も、そしてジャスティでさえも、懐かしく、幸せで満ち足りた気持ちが溢れ
そして同時に、喪失感に襲われる。
じっとジャスティを見つめる桔梗の瞳から涙が零れた。




その様子に、ジャスティが一瞬たじろいだ。
ハッとして桔梗は慌てて、涙を拭い、視線を逸らした。

「ごめん。えっと、なんか懐かしいような変な気分で・・・・。変だよね!!
なんか聞いたことがある言葉のような気がして・・・。それって何語なの?」

桔梗の言葉に、ジャスティは驚いたように目を見開いたが、すぐに動揺をかくし
何でもない風を装ったので、桔梗は気づかなかった。

「・・・フォル語だけど、そんなことより、もうぐっすり眠れるはずだよ。
寝る前に、フェンリルと唱えれば、完璧だから。」

そういってジャスティが笑うと、つられて桔梗も笑った。






そんな事があり、いつもと違った朝の出来事だったが、特に他には何もなく。
いつも通りの日常を終え、家に帰り、御飯を食べると、何となく時間を潰し
お風呂に入り、夜も遅くなったので、眠ることにする。
しかし、毎夜の不思議体験が頭を掠めて、眠ることを躊躇ったが
朝のおまじないを思い出して、瞳をとじ胸の前で手を握ると。
「フェンリル」と声出だして呟く。
すると、不思議と安心して、いつの間にか眠りに落ちていた。




翌朝、ぐっすり寝すぎて、寝坊しそうになったことには困ったが
朝一番にジャスティにお礼を述べた。






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