The poetry of the melodious voice of the dream
--- two ---

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そして、快眠を取り戻してから、一週間。

毎晩必ず眠る前には、おまじないをすることにしている。
おかげで、体調は万全で体育祭を迎えることができた。




桔梗は気持ちよく体育祭に参加し、そこそこ活躍をすると
何やら周りが騒がしい事に気がつく。
女の子達が、ジャスティとお弁当を食べる為に、彼を探しまわっているようだ。


モテル人も考えものだ。
なんて他人事なので、悠々と彼女らの横を通りうけると、密かにお気に入りで
ある、体育館裏の芝生に足を運んだ。
友達と御飯を食べてもいいのだが、一番の友人が係りの為、本部でお昼にす
るというので、一人で食べようと考えた結果である。
案外、人が来なく、のんびりするには最適なのだ。


そう思って軽い足取りで向かったのだが、そこに横たわる人影を見つけて足を止めた。



視線が合うと気まずいので相手が気づく前にとUターンしようとした時
寝ていた人物もタイミングよく起きてしまった。



「あれ?ききょー?」

「・・・おはよう。こんな所にいたんだね。女の子達が探してたよ?」

とりあえず、適当に会話をつなぎ、さっさと立ち去ろうと考える。

「何か用かな?キキョー知ってる?」

「え?・・ああ。なんか一緒にお昼を食べたかったみたい。行ってあげたら?」

「・・・う〜ん。でも、もう食べちゃったんだよね。これ以上は食べれないし。
今日はちょっと彼女達のお話に付き合える気分でもないから・・・。」




いつもは仕方なく付き合ってたのか?と思ったが、まぁそうなものかもしれない。
ジャスティが望んで彼女達のアイドルになっているわけではないのだから。

「そう。なら私もいなくなるべきかな?安心して、ここにいるって言わないから。」

そう言うと、ジャスティは首を傾ける。

「でもキキョーはここで御飯食べるつもりだったんだろ?なら、そうしなよ。
おれは他で眠るから。」

「え?でもジャスティのが先にいたんだし・・・・。」

「でも・・・・。」



「「・・・・・・・・。」」




お互いに、困って顔を見合わせる。
するとジャスティが口を開いた。

「キキョーが嫌でないのなら。一緒にここにいる?」

「え?!あ・・・うん。」



驚きつつも、芝生の上に腰を下ろす。


沈黙が続いたが、不思議と嫌ではなかった。
むしろ、静けさが心地よくて、不思議だった。
なんだかジャスティと一緒だと、不思議なことばっかりだ。
そして、それは一方的に自分が思っているだけだと感じ、少し寂しく感じた。









「自分が自分でないって知ったらどうする?」



突然、ジャスティに声をかけられて、驚いて視線を送る。

「えっと・・・どういう意味?」

「そのまんまだよ。・・・もしお前には、お前の知らない何かがあるんだ。
って言われたら?」


何やら、いつもと様子が違う、それに重く辛い気持ちを押し隠しているような
感じがしたので、軽々しく返せず、言葉の意味を考えてみる。





自分が自分でないってどういう場合に言うのか・・・。
誰かに乗っ取られた?それても本当は身分の高い人物だった・・・とか?
物語だとよく、そんな話があるよなぁ。
魔法使いの話とか・・ある日お前は魔法使いだって言われてたっけ。
う〜ん。自分には起こり得ないと思ってるから、想像するの難しいな。
でも・・・・・。



「例えば、私が実は前世がジャンヌダルクなのよって言われても、だから何?って
思うと思う。」

突然の桔梗の言葉に、驚きつつも、興味を持ったような視線を送る。

「だって、そうでしょ?前世は前世。今は今。それに縛られるのは過去に縛れて
未来を見れない人だけだよ。だいたい、過去が何人だろうと、同じ功績を納めら
れなければ、認められないって間違ってるし。前世が一般人なら、今も一般人で
いいなんて、有名な前世を持つ人からすれば不公平じゃない。それぞれの時代で
それぞれの価値観を持って生きてるんだもの。全く同じになんて成れない。限り
なく近い生き方はできるかも知れないけれど。それっだて、本人次第でしょ?
だから、自分が何者であろうと、自分の信念をもって生きていれば、いいんじゃ
ないのかな。」








「まぁ、信念なんて大層なもの、私はまだ持っていないんだけれど・・・。」


桔梗が溜息がてら呟くと、ジャスティは噴出して笑い出した。

にこやかに微笑む所は何度か見ているが、声を出して大笑いするのは初めてみた。
これがジャスティの本当の笑顔なのだろうか。
とても生き生きしていて、いい表情をしてる。



そう思いつつも、口では別の事を言う。

「何で笑うかなぁ。せっかく一生懸命考えたのにぃ。」

「ごめん、ごめん。だって、いい事言うんだなって関心してたのに
落ちがついてるもんだから。」

言いながらも、まだ笑っている。
笑い上戸なのかなぁ?

「別に、落ちのつもりはなかったんだけど。」

拗ねたように言うと、ジャスティはもう一度ごめんと言って再び笑顔を向けた。


「ありがと。キキョーのおかげで元気でた。なんか難しく考え込んでたみたい。
キキョーの言うとおり、過去は過去だよな。今に生きる俺にはそれに縛られる義務
なんてないんだ。」


最後の方は、声が小さすぎて、桔梗には聞こえなかった。









午後もジャスティは大活躍をして、昼間の様子が嘘のように、いつも通りだった。


桔梗自身も運動神経は悪い方ではないので、程ほどに活躍すると、久しぶりに
たくさん体を動かした反動で凄く疲れて、勝利に酔いしれるクラスメイト達を
尻目に、さっさと家に帰った。







お風呂で十分に体をほぐして、のんびり御飯を食べると疲れてすぐに眠ってしまった。

まだ8時にもなっていないとお言うのに・・・・。






いつものおまじないすら、する間もないまま、眠ってしまったのだ。











そして再び、夢を見る。



夢だと思ったときに、ようやくおまじないを忘れたことに気がついた。



しかし、すでに遅く。意識がぼんやりとしてくる。
扉の前に立ち、女神の声に誘われて、ゆっくりと扉に近づく。




「さぁ、早く。邪魔が来ないうちに。私の元にいらっしゃい。」




甘い声につられて、足を進める。
頭の片隅に微かに警報が鳴っているのに、女神の誘惑の方が強かった。
ようやく、扉の前に立つと、再び声がする。




「さぁ。扉を開きなさい。私の元へ・・・。さぁ。」




ゆっくりと手を伸ばし、取っ手を掴む。



突然女神の声が、狂喜に変わった。


「もう逃がさない!さぁ!扉を開くのよ!!」



そのまま取っ手を回し、開こうとした瞬間。またあの声が聞こえた。




「だめだ、キキョー!!開くな!!!」



しかし、それは遅すぎた。桔梗は扉を少し開けてしまったのだ。



「くっそ!!キキョーは渡さない!!!」



男が怒鳴ると、女神が怯んだ気配がした。


その一瞬をついて、桔梗は扉の前から、横に引っ張られた。




そして闇に落ちていく。






でも不思議と怖くはなかった。
桔梗の手を握る人物は安心できると感じていたのだ。




光が見え、急に眩しくなったので、思わず桔梗は手を離し、顔を覆った。



「あ、馬鹿!!放すな!!・・・・」







だんだん男の声が聞こえなくなり、桔梗は焦ったが、落ちるスピードは止まらない。




怖かったがどうしようもない。そして今度は強烈な光に包まれて、目を閉じる。








すると、突然地面に落ちた。否、水の中に・・・だ。

慌てて浮き上がり、水から顔を出すと、辺りを見渡した。



ここは・・・・どこだろう?家ではない。
地元でもない。
こんな場所は知らない。
本当に夢なのだろか?でも、水は冷たい。
体に纏わりつく服も重たい。やけにリアルではないだろうか?
とりあえず、近くの岸に上がる。服は何故か黒いワンピースだった。


こんな服は持っていないのだけれど・・・。恐る恐る、頬をツネッテみる。




「痛っ!!・・・・・夢じゃない?・・・嘘でしょ?」

でも、だって、ならここはどこなのか?!一人で自問自答するも答えはでない。
自分は確かに家で寝たはすなのに・・・。
お気に入りのパジャマで寝たはずなのに、いつの間にか着替えているし。


怖くて体が震える。
どうしよう。
私、どうしたらいいんだろう。
帰りたい。


思わず座り込むと、体を抱えていた。




それが、私がこの世界に初めて来たときの事だった。






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