World poetry with the protection of Fenrir
--- two ---

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しかし、周りに響いたのは男の叫び声だった。
桔梗が目を開くと、桔梗の前に男の人が立っていた。後ろ向きなので顔は見えない。
騎士の格好だが、こちらは深紅をベースにした甲冑だった。
白の騎士が尻餅をついているのは、深紅の騎士に斬りかかられたのだろう。
深紅の騎士が何か言葉を発すると、白の騎士は慌てて逃げ出した。


それをしばらく眺めた後、深紅の騎士は振り返った。
そこで、再び桔梗は驚きで言葉を失った。



深紅の騎士の正体は、あの不思議な転校生ジャスティだったのだ。

「ジャスティ?!なんで・・・・。」

唖然とする桔梗をよそに、ジャスティは慣れた手つきで剣を扱い桔梗の縄を解く。
そして、持っていたらしい、タオルのような大きな布を桔梗の肩にかけてくれた。

「ありがとう・・・。」

お礼を述べるが、ジャスティは「別に。」と素っ気無く返すだけだ。

「あの・・・ここはどこ?」

何も言わないジャスティに、痺れを切らして尋ねる。

「“フォリネ”だ。」

またもや素っ気無い返事だが、とりあえず今は答えが返ってくることだけで十分だ。

「ふぉりね?どこかで聞いたことあるような・・・でもそんな場所は知らない。」

桔梗は懸命に頭を働かすが日本にそんな場所があっただろうか、なんだか外国みた
いな名前だなとしか考えられなかった。

「それより、移動するぞ。ここにいたら危ない。」

そう急かされて、先ほどの事が頭によぎった。

体が震え、足に力が入らない。
殺されるところだったのだ。

恐怖で体が竦んでしまうのは仕方のない事だろう。
その様子に気がついたジャスティは腕を伸ばし、抱き上げるようにして桔梗を立た
せた。

「あ、あの、ありがとう。」

立たせる為だとはいえ、抱きしめられているかの様な体勢は恥ずかしい。
おまけにジャスティは美少年なのだ。緊張するなという方が無理だろう。

「・・・・別に。」

今度も素っ気無いが、これはどうやらジャスティも照れているからの様であった。
初々しい反応を以外に思いながらも、桔梗はジャスティの後に続いて歩き出した。




「どこに行くの?」

「城だ。キキョーには、そこしか安全じゃない。だから、とりあえず城に向かう。」

有無を言わさぬ態度に、桔梗は驚く。
学校とは、かなり違うのじゃないだろうか。


これが本性なのだろうか。それとも、まさか別人?
やっぱりこれは夢なのではないだろか。


そんなことを考えながら、懸命にジャスティについて行った。













少し歩くと森を抜けて、草原に出た。
そこには2人の騎士がいた。
彼らはシルバーよりやや黒い甲冑に身を包み、馬を休ませていた。



その中の一人が、桔梗とジャスティに気がつく。
すると声を上げたので、周りの者も一斉にこちらを見た。


その様子で、先ほどの事がフラッシュバックして、桔梗の足が止まる。
それに気がついたジャスティが一瞬怪訝そうな顔をしたが、すぐに桔梗の不安を感
じとり、安心させるように優しく言った。

「あいつらは俺の仲間だ。大丈夫。キキョーに危害は加えない。」

その様子は学校の時のように優しくて安心したので、ぎこちなく頷く、しかし完全
には不安が消えないので、ジャスティの後ろに隠れるようにして近づいて行った。






2人の男が二人の前に立ち、左側の男が口を開いた。

「ジャスティ!・・・娘・・・・・・・・・・見つけた・・・・・・城へ・・・」

全く知らない言葉なのに、所々だけ意味が分かる。
あのおまじないの時のような感覚だ。

「・・・。・・・・・白・・・・捕らえ・・・・・・・・・言葉が・・・・・・
ようだ。・・・・・・城へ・・・・・すべて・・・・・。」

ジャスティの言葉に二人は頷く。




ジャスティは桔梗を見ると、二人を紹介した。

「向かって左側のやつはフリードライツ・アルウェン。もう一人はラティス・フォ
イル・ライドだ。」

左側の男、フリードライツはニッと笑い。
桔梗に視線を送ると、興味深そうに全身をみた。

右側の男、ラティスは無表情のままだった。



フリードライツは一番背が高く190cmはあるのではないだろうか、肩幅も広い。
ジャスティ同様に赤毛だが短髪で、瞳は黒い。
気さくで、優しいお兄さんといった印象だ。


ラティスは短い銀髪で、茶色の瞳。
背はジャスティと同じくらいで175cm前後だろう。
細身だが細すぎるということでもない。
無表情で冷たい印象があり近づきにくそうだ。



「桔梗です。」と言って頭を下げる。
すると、なぜかラティスが身動ぎした。
不思議に思って、ジャスティをみると苦笑していた。

「ここでは、あまり頭を下げない方がいい。キキョーはこの国の重要人物なんだ。
身分が高い者として扱われるから、みんなが動揺する。」

「重要人物?!身分が高い?!私、一般家庭の子供だけど?!」

「それについては後で詳しく言う。とりあえず事情を理解出来るまでは、他人と関
わらないで欲しい。安全じゃない事は、十分に理解できているだろ?」

ジャスティの言葉に頷く。

「でも、どうせ貴方以外と話せないわ。言葉が通じないもの・・・。」

「・・・・少しも理解できないのか?」

「単語がたまに分かる程度・・・かな。でもあの白い騎士団のは一単語も分からな
かったけど。」

「あいつらは言語が違うから仕方ない。しかし、フォル語が分からないのは痛いな。
何か手はないだろうか・・・。」




ジャスティが悩んでいると、ラティスが声をかける。
そのまま3人で相談すると、ジャスティが真っ赤になって怒鳴る。
怒っているのではなく照れているようだ。


どうしたんだろうと様子を見守っていると、困ったようにジャスティが桔梗を見る。

「あの・・・・言葉、通じた方がいいよな?」

そう聞かれるので、もちろんと頷く。
知らない場所で言葉も通じないなど、心細すぎると思うのも当然だろう。


すると「あー」とか「うー」と唸りながら頭をかいて悩んだ後、何やら決意を決め
た様子でジャスティが桔梗と向き合った。その様子に思わず桔梗も背筋を伸ばす。


何を言われるのだろうか・・・。



「あのさ!あの・・・その・・・・キスしていいか?」

「・・・・え?・・・は?!・・・えぇぇ?!何言って・・・!?」

キスって・・・まさか・・・・あのキスですか?!
なんで?!話の脈絡がサッパリ分からない。

「誤解するな!あ、いや、だから・・・その、古くからある魔法みたいなもので。」



つまり、キスで言葉が理解できる様になる・・・ということだろうか。
こんな嘘をついても仕方ないので、嘘ではないのかもしれない、とは思う。
しかし、じゃぁお願いします、なんて言えるはずもない。



真っ赤になって黙り込む両者に見かねたフリードライツが、ジャスティを後ろから
蹴る。気を抜いていたのでジャスティはそのまま倒れ込み、桔梗がとっさに支えよ
うと手を伸ばしたので、抱きつくような格好になった。

二人は顔を見合わせて一瞬固まったが、ジャスティが「ごめん。」と呟いてから
顔を近づけてきたので、自然に桔梗も瞳をとじた。



唇が触れると暖かい痺れる様な感覚が全身を巡り、瞼の裏に不思議な景色が映った。

銀色のフサフサした毛並みの凛々しい大きな狼と、艶やかで美しい赤毛の美女が佇
んでいるのが見えた気がしたのだ。


一瞬なのか、それとも数分なのかも分からない口付けが終わると、余韻が残り頭が
ボーっとジャスティを見つめていた。ジャスティの方も桔梗から視線を外さない。


そのままで固まっていた2人は、横から声が聞こえてきてやっと我に返った。

「なんだかんだで熱烈なキスしてんじゃん、長かったし。」

ラティスはさり気なく横を向いたが、フリードライツはしっかりと見て感想を漏ら
す。その言葉に顔中を真っ赤にした桔梗だが、すぐにハッとなって顔を上げた。

「ちゃんと言葉が分かる!」

「そりゃよかった。それなら改めて挨拶を・・・フリードライツだ。よろしくな。
フリードって呼んでくれ。向こうでは年上には敬語を使うらしいな。でも俺は敬語
は嫌いなんだ。それに呼び捨てでいいしな。」

フリードライツが手を出して、挨拶する。桔梗も握り返し、微笑んだ。

「神野桔梗です。よろしくね、フリード。」

「カミノ キ・キョー?発音難しいな・・・・。」

「キョーでいいよ。そう呼ばれる事もあったから。」

「キョーか、その方が呼びやすくていいな。」



次に、ラティスとも挨拶を交わす。

「ラティス・フォイル・ライド。ラティスで結構です。」

淡白な口調だったが、怖い人ではないようだ。

「ラティスね。よろしく。」



「挨拶はその辺にして、行くぞ。キキョーは馬に乗れるか?」

そう聞かれて、桔梗は「まさか!」と首を左右に振る。

「やっぱり・・・。なら、こっち。」

そう言って桔梗の手を引き馬の横に立たせると、ジャスティは両手を桔梗の腰にあて
そのまま馬の上に抱き上げた。そしてジャスティも馬に乗る。

「キキョー、危ないから俺の腕に捕まって・・・そう。怖かったら言えよ?」

その言葉と同時に走り出す。

城に着いたのは、それから20分後の事だった。





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