World poetry with the protection of Fenrir
--- three ---

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城の門を目の前にして、桔梗は開いた口が塞がらなかった。
テレビの映像でしか観たことないような建物の素晴らしさに、おもわず息が零れる。

圧迫感を感じてしまう程の存在感があり。歴史を感じされる重さもある。
そして澄んだ空気は神聖さを感じさせえた。


そんな桔梗を尻目に3人はさっさと門をくぐると馬を近くに居た兵士に預けて、当た
り前のように城の中に進んでいった。
出会う兵が3人を見るたびに、一歩退いて膝を突き、頭を下げる。


3人はとても身分が高いのだろうか。少なくとも今まですれ違った何十人の中には
3人と同等かそれ以上の身分の者は居なかったようだ。

「ラティス。フリージアを探してきてくれ。キキョーをこの格好のままで居させる
わけにはいかない。」

ジャスティの言葉に頷くと、ラスティは別の廊下に進んでいった。

「俺は事情を説明してくる。風習やら仕来たりやらと煩いのが、イライラして待っ
ているだろうからな。後は頼む。」

フリードライツに声をかけると、ジャスティは城の奥に行ってしまった。








フリードライツと二人きりになり、やや途方に暮れる。

しかし、それも長くは続かなかった。

「フリード様!一体どういうことですか!みんな居なくなってるし、私だけ除け者
にするなんて酷いです!それに、どうせまた三人で無茶をなさったのでしょう?!」

キラキラ輝く金髪に紫色の瞳を持った、とても美しい女性が怒鳴り込んできたのだ。


美人の睨み顔は怖いって本当なんだ。


そんな事を考えながら、つい唖然として凝視してしまった。

「リー、落ち着け。彼女がビックリしてる。」

後ろからやってきた、ラスティの言葉で美女は初めて気づいたかの様に、桔梗に視
線を移す。

「あら、じゃぁこの方が!?」

驚いた表情を浮かべたが、桔梗の格好を見てすぐに別の事に関心を移した。

「まぁ、なんて格好なんですか!泥だらけじゃないですか!」

そう言うと桔梗を引っ張るようにして、浴室へ連れて行ったのだった。












「えっと・・・あの・・・。」

まだ名前を聞いておらず、なんと声をかけようか迷っていると、美女は自分の失態に
気づいて罰の悪そうな表情を浮かべた。

「申し遅れました。私はフリージア・サマイスと申します。フリージアと御呼びく
ださい。これからずっとお嬢様の護衛とお世話をさせて頂きますので、よろしくお
願いします。」

笑顔を浮かべて一礼する。

「ええ、よろしくお願いします・・・。神野桔梗です。キョーと呼んで下さい。」

「はい!キョー様。一応私は貴族ですけれど、名ばかりの中流貴族ですので敬語な
んて必要ありませんわ。」

「え、でも・・・。」

「キョー様はまだ自分のご立場を理解しておられないのですね・・・。キョー様より
身分の高い方はこの国では王族だけなのですよ。」

「ええ?!でも、私普通の日本人なんだけど・・・。」

桔梗が困惑して呟くと、フリージアは首を傾ける。

「ニホンジン?・・ああ!向こうの言葉ですね。それより、早くお風呂に入ってし
まいましょう。王子様に対面する為に・・・・というか、王臣たちは煩い頭の固い
方達ばかりですからね。見繕いしていった方が小言を言われる心配が減りますし。」

そう言って桔梗の服を脱がし始めたが、桔梗は言いなりになっていた。





フリージアの言葉に思考が停止してしまっていたのである。

「・・・・・王子様に・・・対面する?」

生まれてから一度も外国に行った事がなく、日本の一般家庭で育った桔梗は当然身分
が高い人、ましてや王族になどあった事がない。
礼儀作法など知る由もない。


映画とか小説にあるように、顔を拝見するのも失礼に当たるのだろうか?
でも何故か桔梗も身分があるらしいし、一礼をした後は顔を上げるべきなのだろか。


懸命に映画とかでは、どうしていたかと考えるが、それだって正しいとは限らない。
本当にどうしよう。






桔梗がされるままなである事を良いことに、フリージアはせっせと髪を洗い、オイル
を浸み込ませたので、程よく甘く爽やかな匂いが髪から流れてくる。
その匂いが、桔梗の緊張を多少なりと解してくれる。


綺麗に洗い清めた後、今度は真っ白で薄いピンク色のコスモスの刺繍が散りばめら
れたドレスを着せられた。肩も出ているし胸元も多少開いているので、恥ずかしか
ったが他に着る物もないので(着ていた服は無くなっていた)仕方ない。膝が少し
現れるくらいの丈の長さで、腰の辺りがキュッと引き締まっており、そしてふわっ
と広がる形のドレスだ。




フリージアが服を着せた後、丁寧に髪を結ってくれたので、鏡をみるとそれほど悪く
ないんじゃないかな、と自分でも思えた。

「キョー様とってもお似合いです!!黒くて綺麗な髪が映えるし、やっぱりこのドレ
スにして良かった!」

フリージアは満足気に微笑む。

「ありがとう。ドレスなんて初めてで変な気分だけど・・・。フリージアのおかげで
人前に出ても恥ずかしくはない程度には成れたかな・・・。」

「何をおっしゃってるんですか!きっと王子様も満足して下さいます。」

その言葉で再びこれから起こる事を思い出し固まってしまうとフリージアは笑った。

「硬くならなくても大丈夫ですよ。王子様はお優しくて素敵な方です。何も心配要り
ませんわ。」











フリージアに案内されたのは、城の奥のほうにある部屋だった。
そこにはラティスとフリードライツがいて、桔梗は大広間のような所でなかったこと
に安心し、少しほっとした。


二人は桔梗とフリージアが入ると、一瞬驚いたような顔をして、フリードライツは口
笛を吹いた。

「これはこれは・・・驚いた。・・・お前もそう思うだろ?」

フリードライツがニヤニヤ笑いながら、ラティスに相槌を求めるが。

「フリード、その言い方は失礼です。」

と素っ気無く返した。




「え?あ・・・・やっぱり変?!・・・こんな格好初めてで・・・・。」

桔梗が困ったような顔をすると、フリードライツが首を振った。

「違うって!綺麗だぜ。そうだな・・・・キョーがもし、パーティにいたら声をかけ
てたかもな。」

フリードライツがそう言うと、すかさずフリージアが睨む。

「だれかれ構わず声をかけるのはお止めになった方がいいですよ。ましてや、キョー
様に声をかけるなんて論外です!!昨日も、侍女の女の子が怖い顔して、フリード様
を探してましたけど?」

「誰のことだろうな。心当たりが多すぎて分からん。お前が相手してくれるんなら
一人に絞ってやってもいいぞ。」

茶化しながら言うと、フリージアは素っ気無く返す。

「その気もないのに、よくそんな事が言えますね。お生憎様、私はその言葉を簡単に
信じるほど甘くはありません。」

「それは残念。まぁフリージアの心には、一人の男が住み着いてるからな。俺も諦め
るとしよう。」

ニッと笑って言うと、途端にフリージアの頬が真っ赤に染まった。

その様子にラティスが怪訝そうな顔をしたが、すぐにフリードライツが声をかけた
ので再び無表情に戻った。




桔梗はフリージアに小声で質問する。

「ねぇ、フリージア。フリードって遊び人なの?」

どちらかと言えば武人のように見えるので、遊び人には見えなかった。
しかし、あの性格を考えれば納得も出来るが・・・。

「はい。何人もの女性が泣かされてますわ。別に酷い行いをするのではないですけど
誰に対しても本気にはならないようです。女達が一方的に惚れて、彼の愛を得ようと
競いあってるのですよ。まぁフリード様も相手の気持ちを知っていて、口説くから困
ったものですけどね。」





その話は、そこで打ち切りになった。
部屋にジャスティがやってきたからである。


「すまない。遅くなった。」

「別にいいさ。また小言でもくらってたのか?」

「まぁな。」

ジャスティはフリードの言葉に肩を竦める。

「すみません。」

「別にお前のせいじゃない、ラティス。それにお前の父であるライド卿の言葉も間違
いではないのだから。」

「それで、キョー様をどうなさるのですか?」

フリージアが聞くと、ようやくジャスティが桔梗に視線を送った。
しかし何も言わないジャスティに、フリードライツが肘打ちする。

「おい。見惚れてないで、なんとか言ってやれよ。」

「え?あ、うん・・・キキョー綺麗だ。」

少し顔を赤くして、ちょっと視線をはずして言う姿が可愛く見えて、桔梗は笑って
お礼を述べた。

「ありがとう!」

「いや。それより、キキョーはこれから奥の神殿で過ごしてもらうことになる。フリ
ージアが身の回りの事をすべてやってくれ。キキョーの存在は絶対人に知られてはな
らない。どこにスパイがいるか分からないし・・・。」

その言葉に、フリードライツ、ラティス、フリージアが真剣な表情で頷く。

「フリード、後で警備の相談がしたい。それからラティス、今までどおり隣国の様子
に気をつけておいてくれ。それに・・・・・・・キキョー?どうかしたのか?」

桔梗の様子がおかしいことに気がついて、ジャスティが声をかける。

「えっと。その分からないことだらけで・・・・・いろいろ聞きたいんだけど、何か
ら聞けばいいかも分からないし・・・。」


「ジャスティ様!何もお話してないんですか?!不安になって当然じゃないですか!」

フリージアが非難するように声を上げると、ジャティスは少したじろぐ。

「リー、落ち着け。そんな時間はなかったんだ。お前も分かってるだろ。」

ラティスに言われ、渋々納得するも拗ねたような顔は直らない。
どうやら置いてきぼりにされたことを、まだ怒っているらしい。



その様子に苦笑していたジャステイは、桔梗の方を向くと謝った。

「すまない。何も分からなくて不安だよな。何から話せばいいのだろうか・・・。
まず、分かっていると思うがここは日本じゃない。もっと言うなら、ここは地球じゃ
ない。」

「地球じゃない?」

信じられない気持ちで聞き返すと、ジャスティは頷いた。

「ここは地球のある世界とは別の次元だ。異世界“フォリネ”・・・と言えばいいの
だろうか・・・にあるフェリンスという国だ。詳しいことは俺にも難しすぎて分から
ない。当然、歴史や文化も全く違うし、人だって違う所があるかもしれない。 」



「でも、なら、なんであなたは日本にいたの?どうして・・・どうして私はこちらに
来てしまったの?」

混乱する頭を必死に働かせながら尋ねると、ジャスティは少し言いずらそうに躊躇
った。



「・・・・キキョーは元々・・・この世界、ファリネの人間だ。」





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