World poetry with the protection of Fenrir
--- four ---

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この世界の人間?私が?

物心がつく頃から日本に住んでいたのは間違いないし、赤ちゃんの頃からの写真だ
って家にある。それなのに、どうしてそんな事が言えるのか。



唖然としている桔梗をよそに、ジャスティは話を続ける。

「どうして桔梗が異世界にいたのかは・・・分かっていない。でも俺はずっと桔梗を
探していた。それが俺の宿命だから。それで、やっと見つけたときは愕然とした。ま
さか異世界にいるとは思っていなかったからな。」


「・・・どうして私を探してたの?ジャスティは私をこちらに連れて来るために、日
本に来たの?!」


多少恨むような口調になってしまったが、それは仕方ないことだろう。
桔梗は日本にいて何の問題もなかったのだし、あのまま普通に暮らしていたかったの
だから。




「それは違う。」

今まで黙って見守っていたが、見かねたフリードライツが庇うように口を挟んだ。

「ジャスティは確かにあんたに会いに異世界に行ったが、別にそれはあんたを連れ
戻す為じゃない。あえて言うなら守るためだ。あのまま平和に暮らせるんなら、あ
んたはこの世界を知ることなく、向こうで平和に暮らせたろう。少なくとも、ジャ
スティはそうさせるつもりだった。しかし、それを壊したのはあんた自身でもある。」


ジャスティと違い、フリードライツは遠慮なく事実を述べる。

「・・・・私が?」

「魔力のせいでもあるが、扉を開いたのはあんただろ?あのまま進んでいたら、あん
たは間違いなく死んでいたぜ。」


扉・・・あの夢のことだろうか?


「でもあれは、ただの夢じゃ・・・・。」

「あれは現実です。」

ラティスが短く口を挟む。




桔梗が途惑っているのを感じ、ジャスティは優しく桔梗の肩に手を乗せた。

「落ち着いて聞いてくれ。キキョーの命を狙う者がいる。そいつが魔力を使い、眠っ
ていて無防備だったキキョーを世界の狭間に連れ去っていた。それがあの扉の前だ。
世界を渡るのは特別な力を持つ者しかできない。その力を持たない者が越えようとす
ると魂が消滅すると言われている。だから、あの時はかなり危険だったんだ。」



命が狙われている・・・・。
その言葉で、殺されそうになった事も思い出した。
あれも、何か関係あるのだろうか。


「どうして・・・誰が私を?だって、この世界のこと知りもしなかったのに・・・。」

「それは・・・命を狙う理由は、よく分からないんだ。ただ、狙った相手はわかって
いる。隣国“リタン”のサルヴィア・ブルーネ・リタン女王。」

「隣国の女王が私を・・・。」

恐怖で体が震える。
その様子を見て、ジャスティは途惑いながらも優しく抱きしめてくれた。

「大丈夫。キキョーは絶対守るから。」

桔梗は少し落ち着いて、しかし抱きしめらている事を思い出して頬を赤く染め俯いた。

「あ、ごめん!!」

慌ててジャスティが離れて謝るので、桔梗は首を横に振る。



「キスまでしたくせに、何を今さら照れてるんだか・・・。」

フリードライツが呆れたように、でも初々しい二人の反応を面白がって言う。
それを聞いてフリージアは嬉しそうに「まぁ、そうなのですか!」と歓声をあげ
ラティスはその手の事には触れないと決めたらしく、無表情で沈黙を保つ。

「フリード!!」

ジャスティが真っ赤になって怒鳴るが、フリードライツは気にした様子もない。





「あ、あの、そんなことより、一つ聞きたいのだけれど・・・・。」

恥ずかしくて話題を変えようと、桔梗が声を上げる。

「何?」

ジャスティに聞かれるが、答えを聞くのが怖くてすぐには言い出せなかった。
でも聞かずにもいられないので、覚悟を決める。

「あの・・・・私。私は・・・帰ることが出来るの?」

その言葉に、3人が固まる。



それを見て、桔梗は絶望に襲われる。無理なのか・・・と。


「それは・・・・今、探してるんだ。」

「・・・・・ということは、今のところ方法がないのね・・・。」

桔梗が泣きそうになりながら言うと、ラティスが否定する。

「方法はあります。ただ、実行するには問題が・・・。」

「問題?・・・・危険とかがあるとう事?」

「危険はないのですが・・・そのですね・・・・。」

フリージアも困ったように言葉を濁す。
不思議に思っていると、苦笑してフリードライツが後を引き継ぐ。

「とりあえず、異世界に行く方法から順に説明すればいいだろ。」





それを聞きジャステイは頷いて、説明を始める。

「異世界に行く方法自体は、難しくも何ともない。この城の南に、大きな水晶がある
んだ。その水晶を媒体にして空間を開いて通るだけ。それは多少魔力があれば誰でも
出来る。しかし、前にも言ったが特別な力を持たない者が通ろうとすると、消滅する
。これは実験の結果分かった事実だ。」

「実験・・・。」

いやな響きで、桔梗は顔をしかめる。

「どうしても知るべき重大な事だったからな。誰でも異世界に渡れるのならクリスタ
ルを厳重に見張る心配がある。多人数で異世界を渡ったりしたら、世界の均衡が崩れ
てもおかしくはない。だから、昔、死刑囚を使って実験を行ったそうだ。」




まず力を持つ者が一人渡る、異世界で逃げないように見張る為だ。続いて三人の死刑
囚が一人ずつ渡り、最後に力を持つ者と二人の死刑囚が同時に渡った。

その結果、異世界に渡ったのは三人だけだったそうだ。
その三人は力を持つ者が二人と死刑囚が一人だった。
一人で渡った死刑囚は全員いなくなり、力を持つ者と渡った死刑囚は一人だけ助かっ
た。

助からなかった方は、途中でだんだんと消滅してしまったという話だ。
その後も何度か実験を重ねたが、結果は変わらなかった。




ジャスティがそこまで言うと、フリージアが後を引き継ぐ。

「一人で渡れば確実に死ぬ。でも力を持つ者と一緒に渡れば、助かる見込みは半分に
上がるんですよね。けれど助かる人と助からない人の違いが判らないんです。どんな
規則性も見つからなくて・・・。一回目は無事に、通れた人でも二回目で亡くなった
人もいるとか。」

その言葉に頷くと、ラティスは桔梗を見る。

「回を重ねるごとに、死ぬ確率も上がるといわれている。だからキョーはもう、この
手は使わない方がいい。少なくとも二回渡っているのだから。」

そう言われて桔梗が、ならばと尋ねる。

「二回も無事だったのだし、私にも特別な力があるということにはならないの?」

「それはない。」

やけにはっきり否定された。

「力を持つ者はフェリンス王家の者だけだ。桔梗は王家の血を引いていないのだから
力はないはずだ。それに王家の者は赤毛だ。」



そう言われて、桔梗は驚いてジャスティとフリードライツを見る。二人とも赤毛だ。


「え?!じゃぁ、ジャスティとフリードって・・・・。」

「言ってなったか?こいつはジャスティ・カイ・フェンリス正真正銘この国の王子様
だ。おれは王家の血は引いてるが王家ではない。まぁ異世界には渡れるけどな。実際
に何回か行き来していたし・・。」

「行き来って・・・。」

「時々学校休んでただろ?大事な用事があって、こっちに戻ってたんだ。」



つまり病弱だったのが嘘。
学校の女の子達の言っていた“異国の王子様”が事実だったのだ。



唖然とする桔梗よそに、フリードライツは淡々と話す。

「こちらに来るときに、桔梗の傍にいたのもジャスティだぜ?桔梗が途中で腕を放す
から、もしかしたら消滅したかもしれないって、大騒ぎになったんだ。いつも桔梗を
世界の狭間から連れ戻してたのもジャスティだ。」



そんなにずっと守られていたとは全く知らなかった。

「そうだったの・・・。ごめんなさい!あと、その、ありがとう。守ってくれて。」

「ああ。・・・・・まぁともかく、だから桔梗は俺達と渡ればいいとも言えない。」

「もう他の方法はないの?さっき“危険はないけど問題がある”方法は?」

桔梗が言うと、ジャスティは「そうだけど・・・。」と再び煮え切らない態度をとる。





「今まで過去に数人だけ、王家の血を引いていないのに一人で無事に異世界に渡った
者がいる。」

フリードライツが言う。

「その者たちには共通点があって、王家の者と結ばれてた。と言えばいいのかな。」

「それって・・・・・結婚するということ?」

「いや、結婚はどちらでもいい。」

「・・・・・・・・・つまり、それって・・・。」

「まぁ、愛し合え・・・・ということだ。おまけに、もう一つ条件がある。」

「・・・・・何?」

「相手は王家の中でも特別な人間じゃないとダメだという事らしい。キョーにとって
幸か不幸かわからんが、その条件を満たしているのは、一人しかいないがな。」

そう言ってフリードライツは視線をジャスティに向けた。

「・・・・・・・・・。」

どう反応していいか分からず、黙り込む。




すると、フリージアがわざとらしく咳をしてから口を開いた。

「まぁ、今のところ。危険すぎて、どの道帰れないのですし。時間はあります。もし
かしたら、別の方法も見つかるかも知れませんし、お二人がその間に・・・その・・
・恋に落ちる事もあるかも知れません。ですから、この話はこの辺にして今日はそろ
そろ食事の時間にいたしましょう!」



みんなが部屋を出て行こうと歩き出す。

しかし、桔梗は動くことが出来なかった。


みんなが嘘をついてるようには思えなかった。
何より部屋から突然異国に連れ去られた事からして、異常な出来事が自分の身に降り
かかっている事は明白だ。
しかし、頭で理解しても心はついていかない。


放心状態で立ちすくんでいる桔梗に気づいたジャスティは、ゆっくりと桔梗に近寄る。

「キキョー?大丈夫・・・なわけないよな。ごめんな。変なことに巻き込んで。」

視線を下に落としたジャスティが呟いた。

「ジャスティのせいじゃないよ・・・。」

「いや、俺のせいなんだ。俺があの頃・・・・。」

「あの頃?」

「あ、いや。あの時にキキョーが扉に近づく前に助けてれば、キキョーはこっちに来
なくて良かったんだ。遅くて・・・ごめん。」

ジャスティが頭を下げる。しかし、キキョーは首を大きく横に振った。

「ジャスティのせいじゃあいわ。せっかく、おまじない教えてくれたのに・・・私
体育祭で疲れて忘れてて・・・・。ごめんなさい。」

キキョーも頭を下げて、謝る。

「キキョー、顔を上げて。」



ジャスティは桔梗の肩に片手を置くと、顔を上げた桔梗に優しく微笑んだ。



「キキョーは絶対守るよ、約束する。きっと地球に返してみせるから。だから俺を
信じてくれ。」


「・・・うん。信じる!」



ジャスティの言葉はすべて信じられる。


それに、信じなければいけない。・・・そんな感じがする。




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