The legendary poetry of gods
--- three ---

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そんな事があってから数日後の夜。

桔梗は不思議な夢を見た。

あの銀色のフサフサした毛並みの凛々しい大きな狼と、艶やかで美しい赤毛の美女
の夢。


今ならわかる。
狼神“フェンリル”とミロンだ。


彼女の喜び、フェンリルへの愛情が桔梗にも伝わってくる。

幸せで、毎日が満ち足りていた。


桔梗が生きてきた17年間。

彼女のような幸せは感じたことがない。
彼女のように誰かを心から愛した事はない。

それくらい、強い思いが溢れている。
そして、同じ思いをフェンリルも感じている。


2人から溢れるの心地よい思いに、身を任せた。












突然。
足を引っ張られて、暗闇に落ちていった。
バンジージャンプで落ちていくのと同じ感覚がする。








やがてスピードが落ちて、ふわりと地面に足を下ろした。

見渡す限り暗闇で、何もない空間。
寒いわけでもないのに、ゾッとする様な寒気する。

誰のいないのに、どこからか誰かに見られているのではないかという思いがする。
全身を舐め回すような視線を感じて、吐き気と冷や汗が出てくる。





すると、地面から大きな蛇が顔をだした。
その蛇は、じわり、じわりと桔梗に近づいてくる。


逃げようと思ったが、桔梗の体は石化してしまったかの様にピクリとも動かない。

やがて桔梗にたどり着いた蛇は、桔梗のそろえられた足を螺旋状にゆっくりと上っ
てくる。


蛇に触れられている感覚はないが、唯一動く視線でしっかりと蛇の動きを捉えられ
るので、しないはずの感覚が全身に走る。





気がつくと、少し離れた場所に女の子が立っているのが見えた。
上品はドレスを身に纏った、美しい女の子。
銀色の髪に藍色の瞳を持つその少女に助けを求めようとしたが、声が出ない。


少女と目が合ったので、目で助けを求めようと思った。



しかし目が合ったその瞬間、今までにない恐怖を感じた。



無表情の少女。
けれど少女の瞳の奥に、桔梗に対する怒りと憎しみがあった。

綺麗で・・・まるで人形のように無表情なのに、瞳にだけは感情が表れている。




初めて会う少女に、自分は何故こうも恨まれているのかわからない。
けれど、少女は確かに桔梗を殺したいほど憎んでいるとわかる。


初めて少女の表情が変化した。

「あんたさえ、あんたさえいなければ・・・。そしたら・・・私は・・・・。」

少女から、途切れ途切れに声が聞こえる。




その声を聞き取ろうとしたが、体中を縛り付けている蛇が桔梗の首までたどり着き
動きをとめ少しずつ、桔梗の体を絞めつけていく。

力が強くなるほど、体が痛みに悲鳴をあげる。

やがて首をも絞められる。



このまま、理由もわからず死んでしまうのだろうか。







そんなのは嫌だ。


誰か助けて!!


死にたくない!!


誰か・・・。








「・・・・ジャスティ・・・。」

掠れた声が口から零れた。










その時、蛇の力が弱くなった。
少女が驚いて、何かを喚いているのが視界の端に映っている。


蛇はだんだん消えていき、固まっていた体も解れていく。


やがて上の方から暖かい光と、誰かが差し伸べる手が見えた。

光が広がって、少女も見えなくなっていく。



桔梗は動くようになった手を伸ばし、その手を握った。




引き上げられるような感覚。

そして・・・。

目が覚めた。















目の前に移る、ここ2ヶ月ですっかりお馴染みになた見慣れた天井。
嫌な夢で冷や汗を掻いたと思っていたが、体が汗でべとついたりはしていなかった。


・・・・・?


寝る前と着ている物が変わっている気がするのは何故だ。
それに左手に何か違和感が・・・。

体は起こさずに視線だけを左に移して、絶句した。
左手で手を繋いでいたのだ。



手に当たっている、さらさらの髪の毛。
深い緑色の瞳は今は瞼に覆われて見る事ができない。



ジャスティは桔梗のベットの横にある椅子に座り、ベットに置いた腕を枕にして眠
っていた。



何故ジャスティがこの部屋に?

どうして手なんか握ってるの?

疑問はあるが、ぐっすりと眠っているのを起こすのは気が引けて、左手を動かさな
いように気をつけながら起き上がった。


体が重くて、だるい。




視線だけ窓の外に移すと、ほんのりと明るくなっていた。
今は早朝なのだろう。

視線を再びジャスティに送る。

本当に良く眠っている。
朝日を浴びて、赤い髪の毛が金色のようにも見えた。


無意識に右手が、ジャスティの髪の毛に伸びていた。

すっごく、さらさら。
細くて綺麗な髪が羨ましい。
夢中になって髪を弄っていると、視線を感じた。

いつの間にか、起きていたジャスティがジッと桔梗を見ていたのだ。



・・・・・・?!



「ご、ごめん!つい、その触ってみたくて!!」

「・・・別にいいいけど。・・・体調は悪くないか?」

「あ、うん。元気だけど・・・。」

「そっか。なら良かった。」

安心したように、ジャスティはほっと息をついた。



「あ!!」

私、寝起き!
顔も洗ってないのに、見られるなんて!!

今さらながら、気がついて慌てて右手で顔を覆う。

「キキョー?どうしたの?」

「みないで!!私、寝起きだし!!」

「そんな事気にしなくても・・・・。」

「女の子は気にするの!!」

桔梗が怒鳴ると、ジャスティは驚いた顔をした。

「ごめん・・・・。」

ジャスティが謝ると、桔梗も怒鳴るほどでもなかったと思い謝る。

「いいの。ごめん。怒鳴っちゃって。」

「いや、女なら当然だろうし・・・。」

そう呟くジャスティの視線は、桔梗とは別の方を向いていた。


どうやら見ないという意思表示のようだ。

そんなジャスティの不器用な思いやりに笑みが零れる。




ジャスティの視線が左手に移って、固まった。
触れ合う手の温度の心地よさで、忘れていたが二人は手を繋いでいたのである。

「これは、その!桔梗が・・・。」

ジャスティは慌てて手を離した。

「私が?」

離れてしまった温もりを、少し寂しく思ってしまった。


それにしても、寝てる間に無意識にジャスティの手を握ってしまったのだろうか。

でも、そもそもなんでジャスティがこの部屋に・・・。


「あ、そうじゃなくて・・・。その、気づいてるか?キキョーは三日間眠ったまま
だったんだ。」

「え?」

自分では一晩しか寝た感じはしない。
たしかに、やけに長い夢を見てた気がするが・・・・。




夢で思い出す、あの恐怖。
無意識に自分の体を抱きしめる。

様子がおかしい事に気がついたジャスティは桔梗の頭に手を置き、優しく髪を撫で
た。

子供扱いされている様で恥ずかしいけれど、気持ち良くて、ほっとする。


「もう大丈夫だから。怖い夢を見たんだろ?キキョーすごく苦しそうだったし。」

「うん・・・。蛇が全身に巻きついてきて・・・女の子が・・。」

「女の子?」

「うん。同じ歳くらいの子。銀色の髪に藍色の瞳のすっごく綺麗な。でも私の事嫌
ってるみたいで・・・ううん。嫌ってるんじゃなくて、殺したいほど憎んでるみた
い。」

あの、冷ややかな視線を思い出す。




「銀色の髪・・・サルヴィア・ブルーネ・リタン・・・。」

何かを考えていたジャスティが、呟いた。

「リタンって・・・。」

「ああ。銀色の髪の少女は、たぶん。リタンの女王だ。確か同じ歳だけど。けど
15歳のときに、即位したはずだ。」

「じゃぁ、あの夢は。夢じゃない?・・・・だって、リタンの女王は私を・・・。」


再び恐怖が襲ってきて震える桔梗を、ジャスティが優しく抱きしめた。



「大丈夫。言ったろ?・・・桔梗は絶対守る。」

耳元で囁かれる言葉と暖かい温もりに包まれて、桔梗の震えが止まる。

「もう二度とそんな怖い夢も見させない。・・・・おれを信じて。」

桔梗が頷く。

ジャスティは、ほっとしたように小さく息を吐いた。

自分の腕の中で安心したように身を預けてくれる桔梗の肩に頭をのせる。

ジャスティは、柔らかくて感触と暖かい温もりを感じながら目を閉じた。














余談。

朝になって、様子を見に来た3人組。

予想してなかった2人のラブシーンに驚いて声を上げたのは二人。
冷やかすように口笛を吹いたのは一人。


真っ赤になって慌てて離れた二人は・・・・。


数日間、互いの顔が見れなかったとか。






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