Poetry of the country which Leviathan influences
--- two ---

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翌日。
昨日は桔梗の様子が変だったからと、街に出るのを一日遅らせた為、今日は朝から
ジャスティ、フリードライツ、ラティスの3人が朝から桔梗の部屋を訪れた。



「フリージアだけでも大丈夫だとは思うけど、もしもの事を考えて俺達も行くよ。」

昨日の事が嘘のように、いつもと変わらぬ優しい笑みを浮かべたジャスティが言う。

「街には可愛い女の子達もいるけど、不貞な輩も同じくらいいるからな。」

フリードライツもいつも通りで、桔梗は一瞬昨日の出来事は夢だったのではないか
と疑いたくなった。



そんな桔梗を他所に、いつものお説教が始まる。

「私の目の届く範囲で、女の子を口説くことは許しませんよ。これ以上、この国に
不幸な乙女は作りたくないですから!」

フリージアが睨みながら言うと、フリードライツは肩を竦める。

「そんな怖い顔するなよ。俺は、不幸にした覚えはないぜ?最高に楽しい一時の夢
を共有しているだけだからな。」

「一時ってのが問題なんです!!」

「リー。」

ラティスは短く呼びかけて、フリージアを止める。

「でも・・・。」

「・・・お前が気にする事じゃない。」

いつも無表情のラティスが、優しい性格をしているということを桔梗は知っている。
しかしフリージア相手には特に優しさを感じる気がする。


幼馴染のこの2人・・・怪しいと思うのは桔梗だけだろうか。

でも、ラティスには許婚がいると、どこかで聞いたような・・・?





みんなの心情はわからない。
しかし表面上は、いつもと同じように会話を楽しんでいた。

そして、いつもと変わらない平和な一日を過ごすはずだった・・・。












目立つ赤毛の髪を布で隠し、格好も街人のような服に着替える。
手馴れた様子のジャスティ達を見ると、お忍びで街に行くのは珍しい事ではないら
しい。

日頃は貴族としての誇りを大事にしているラティスすら、当たり前のように服を着
替えたのには驚いたが、ジャスティはともかくフリードライツの傍にいれば、この
程度は日常茶飯事なのだろう。



四人で街に行くのは初めてで、遠足の前の子供のようにワクワクする。

そんな桔梗を見て、笑みをこぼしたジャスティと目があったが、反射的に視線を逸
らしてしまった。

ジャスティが不思議がっているとわかったが、桔梗の方は昨日の今日で何も知らな
いふりしてジャスティと接する事が出来なかった。

正直、今までどんな風に接していたのかわからなくなっていたのだ。


普通に接しようと思うのだが、考えれば考えるほど不自然な態度になってしまう。











街に出て最初に向かったのは、人々がごった返す市だった。

商人達が各地から集めた品物を、道行く人を呼び止めては、巧みな話術で売りさば
いていく。


桔梗もその話術に乗せられた一人で、とても綺麗な翡翠のイヤリングに魅入ってし
まった。



言われるままに耳に飾ってみる。

「よくお似合いですよ。貴方の為に作られたかのようです。そうですね・・・これ
はどうやら貴方の所へ行く運命のようですし・・・今なら500フェンリスで手を
打ちましょう。」

その言葉で、思い出した。


ここは日本ではない。
当然、フェンリスなんていう単位のお金は持っていない。

しぶしぶ、商品を手放そうとすると、横からお金が支払われる。



驚いて視線を上げると、ジャスティが笑顔で言う。

「とても似合うよ。」

「ありがとう。」



でも申し訳ないからいい。



そう言おうとしたら、口を手で塞がれた。

「遠慮する事ないよ。気になるのなら・・・。いつも城に閉じ込めちゃってるお詫
びだと思って受け取って。」

こそっと耳打ちして言うと、ジャスティは支払いを終えてしまう。




「優しい彼氏だね!」

イヤリングを差し出して笑う商人に、曖昧に頷く。
5000フェンリルという金額が、高いのか低いのかもよくわからない。


ただ、前に買い物に来たとき。
その時は、桔梗が生活するために必要な服などは、自分で選んだ方がいいだろうと
フリージアに連れられて買いに来たのだが、城で着るに相応しい高級そうな服だっ
たけれど一着1000フェンリスぐらいだった。


その5倍・・・いくらアクセサリーとはいえ高いのではないだろうか?





そんな桔梗の心を読んだのかは、わからないがフリードライツが笑って言う。

「ジャスティはこの国一番の金持ちの息子だぜ?遠慮することないって。」

「それって・・・国の人々のお金でしょう?なんか申し訳ないよ。」

「そうか?だって、ジャスティはそのお金を使うに相応しいほど、働いてるぜ?
つーか、忙しすぎてあいつ自分の為に金を使うって事しないし。」




「だいたいフェンリルがそうだったせいか・・・王家の連中って、贅沢を嫌うん
だよなぁ。あいつの贅沢って・・・休日に街に出て、買い食いしながら街を歩いて
幸せそうな民を眺める事なんだ。それに比べりゃ、貴族達の方がよっぽど豪華で華
やかな生活を送ってる。」




「そう言われれば・・・ジャスティの部屋も派手ではないよね・・・。」

「だろ?寝れればベットなんて何でもいいんだよ。服もそうだし。宝石にも興味は
ない。侍女達が嘆くほど、身の回りのものに無頓着なんだ。だから有り余るほど金
はあるんだし、桔梗が気にする必要ないって。」


そう言われて、多少気持ちは楽になったが、気にするなというのは無理だ。


それをここで言って、品物を返す方が失礼にあたるだろうから、桔梗は丁寧にお礼
を言う事で、自分を納得させた。


それでも嬉しい気持ちも大きくて、自然に緩む口元を引締めながら通りを歩いた。




視線を感じて、横を見ると、フリージアがにっこりと笑った。
昨日以来、落ち込み気味だった桔梗の機嫌がよくなった事がわかり、フリージアは
嬉しかったのだ。


それを後ろで見ていた、ラティスが声をかける。

「リーも何か買うか?」

「私は・・・・結構です。今日はキョー様の為に来たのですし。」

「そうか。・・・あ、母上が美味しい紅茶を見つけたから、次の休みにお前を誘え
と。来るか?」

「ツバキ様が・・・しばらくお会いしてないですし、お伺いしたいですけど。」

ラティスの言葉に、フリージアが少し迷うような表情を作る。

「なら、来ればいいだろ。今さら、何を遠慮してるんだ?」

ラティスは煮え切らないフリージアに、怪訝そうな表情だ。




「私が、ライド家にお邪魔する事を・・・気にしておられるみたいですから。」

フリージアが呟いた言葉を聞いて、ラティスは顔をしかめる。

「・・・マリィか?」




フリージアは答えずに曖昧に微笑むと、桔梗の手を引いて歩き出す。

「キョー様!あっちにとっても美味しいケーキを売っているお店があるんですよ。
寄って行きませんか?」

「え?・・・あ、うん。」


桔梗は後ろを振り返ると、男達3人は別の店を見に行くと行って、違う道に入って
行った。











しばらく、無言で歩いていたがフリージアが少しずつ話し出した。



「マリィ様は・・・ダリア家のご息女です。ダリア家といえば、ライド家と並んで
も遜色ないほどの名家ですもの。小柄で可愛らしくて、ラティス様とはとてもお似
合いで・・・国中で一番有名な恋人同士です。」


「マリィ様は幼い頃にパーティで会ったラティス様に一目惚れをなさったとかで、
向こうから申し込まれて10歳の頃に縁談の話が・・・。」



「10歳?!そんな幼いときに・・・。」

桔梗が唖然としていると、フリージアは微笑んで言う。

「そんなに珍しい話ではないんです。・・・私にも、縁談の話はありますから。
もちろん、断ってますけど。」


「そりゃ〜フリージアは綺麗だもん。私が男だったら絶対ほっとかないよ!!」

「光栄ですわ。キョー様だったら、喜んでお受けします。」


「そっかぁ。残念だな。私、なんで男に生まれなかったんだろ。」

桔梗が悔しそうな顔を作って言うと、フリージアは声を出して笑った。




「でも、キョー様は女性でよかったと思いますわ。でないとジャスティ様が可哀想
ですもの。」


そう言われて、昨日の事を思い出す。

フリードライツも・・・フリージアもジャスティが私に好意を抱いてると思ってい
るのだろうか?



でも、ジャスティは・・・・。







いきなり黙り込んだ桔梗をフリージア不思議そうに見ている。

「キョー様?どうかなさいましたか?」

「あ、何でもないの。・・・・それより、えっと。ケーキ屋さんはまだ?」

「もう、近くですよ。苺のケーキが最高なんです。たくさん買って行きましょう!」


「言われれば・・・甘い匂いがしてきたする!楽しみだな。」


2人は無意識に歩調を少し速めて、ケーキ屋に向かう。











数分歩くと、ケーキ屋の看板が見えてきた。

「あ!あれです!・・・あの、青色の――!?」


フリージアが看板を指差したその時、突然5〜6人の男に取り込まれた。



「お前がフリージア・サマイスか・・・噂以上の美人だな。」

男の一人がニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべながら言う。
その言葉に、フリージアは嫌悪感を隠さず睨むように男を見返す。


「そんな怖い顔して睨むなよ。大人しくしてれば、手荒な事はしねぇよ。用がある
のはお隣のお嬢さんだからな。」




え?私?


桔梗は怪訝そうな顔をしたが、フリージアは表情を引き締めて、桔梗を庇うように
して前に出た。

「・・・あなた達はリタンの・・・。」

リタンという名を聞いて、体が竦む。




殺されてしまうかもしれない、という考えが頭を過ぎる。




「まぁな。その女になんの用があるのかは知らねぇが、莫大な賞金を出すって話だ。
・・・大人しく俺達と一緒に来てもらうぜ。」

男が言い終わらないうちに、囲まれてしまう。





フリージアは自分の失態に、唇をかむ。そして小声で桔梗に言った。

「私が・・・隙を作ります。その隙に走ってください。来た道を戻っていけば、
ジャスティ様達と合流できるはずですから。」

「でも・・・それじゃぁフリージアが!」

桔梗がフリージアの服を掴み止めると、フリージアは微笑んだ。

「大丈夫です。キョー様はご存知ないですが、私の剣の腕前は、なかなかのもの
ですよ。ここで、この人数を相手にあなたを護りながら戦うのは厳しいです。です
から・・・先にお逃げください。必ず、後を追いますから。」



その言葉と態度に、フリージアが嘘を言っているとは思えなかった。


今ここにいたら、桔梗は足手まといになる。
桔梗にできる事といったら急いでジャスティ達を呼びに行く事だけだ。


桔梗はフリージアに頷くと、手を握った。

「わかった。だから・・・必ず、後で会いましょう。」

フリージアも頷くと、隠し持っていた短剣を手に取る。





「やる気か?・・・止めとけよ。綺麗な顔に傷がついたら困るだろう?」

「無用な心配だわ。あなた達に私が傷つけられるはずないもの。」

フリージアは堂々とした面持ちで、言い返す。

「言ってくれるじゃねぁか。・・・いいだろう。後悔するなよ。」





襲い掛かってきた男を、フリージアは体を翻してよけ、腕を切りつける。
それを見てた男達も、からかいの表情を消してフリージアに向けて剣を抜いた。




フリージアは戦いながらも、少しずつ桔梗から離れた。

すると男達も、フリージアにつられて桔梗から離れていた。







今ならいける!!



桔梗は走り出すと、振り返ることなくまっすぐ向かう。
後ろで男達の声が聞こえたが、追って来る気配はない。
きっと、フリージアがうまく足止めしてくれたのだろう。



早くみんなの所へ行かないと!!
フリージア、待ってて・・・必ず、戻るから!!





そのことだけを思いながら、前しか見ていなかった桔梗は気がつかなかった。


桔梗の後ろを追っている影があることを・・・。






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