Poetry of the country which Leviathan influences
--- three ---

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なんとか男達を撒いて逃げる事ができたフリージアは、負傷して歩くのも辛い状態
だった。

致命傷は負っていないが、右足を斬られ足に力が入らない。
5〜6回はナイフが体を掠めたので、服の袖をちぎって応急処置をしたが血を流し
すぎたようだ。


木陰に身を隠し、あたりに人の気配がない事を確認して、目を瞑った。

無事にみんなと合流できただろうか。
合流していたら、今頃はみんなで城に向かっているところだろう。

フリージアより腕が立つ三人に護られれば大丈夫。
自分にそう言い聞かせて、一息つく。



体が麻痺していて痛みは感じないが鉛の様に重い。もう瞼を上げるのも億劫だ。
もしかしたらこのまま・・・。

そんな考えが頭をかすめたが、恐怖は感じない。
あるのはただ後悔と謝罪の気持ち。



身分なんて気にせず、素直になればよかった。

キョー様ともっと、いろんな事をお話したかった。
フリード様には私がお説教しないといけないし、ジャスティ様の力になりたかった。

いつか王となったジャスティ様のお手伝いをするって・・・約束したのに。







幼い頃の約束がフリージアのすべてだった。
ずっと一緒に・・・ジャスティ様の為に頑張っていこうと約束した。


ずっと傍にいられれば他に何も望んでいなかったのに・・・。





その約束すら守れないかもしれない。

「ごめんね・・・。約束したのに・・・ごめん、ラティス。」

声にならない声で呟くと、フリージアは意識を失った。














桔梗が目を覚ましたのは、見覚えのない綺麗で広い部屋の中だった。
自分が何故こんな所にいるのかがわからない。

頭痛が酷くて、何かを考えるのも億劫だが、ベットにうずくまって頭痛が和らぐの
を待ってから、意識を失う前の事を考える。


たしか・・・。
みんなで街に出て、フリージアと2人でケーキ屋に向かっていたら男達に囲まれた。
フリージアのおかげで逃げる事ができたから、ジャスティ達の所へ向かって走って。
それから・・・・。




それからは何も思い出せない。

ただ急がなきゃと思って走っていた事しか覚えていない。
なんで意識を失ったのかも、誰にどこへ運ばれたのかもわからない。

誰かに助けてもらったのか、それとも・・・。


それに・・・フリージアは無事だろうか?








桔梗は不安に駆られながらも、ベットから降りて窓に近づいた。
窓の外は見覚えのない風景が広がっている。

外を見て分かったのは、この部屋はかなり高い位置にあるという事と、おそらく
フェンリスの城ではないという事。部屋の扉は一つしかなく、しかし外側から鍵
が掛けられているのか開かない。


途方にくれて、けれども慌てても仕方がないと、椅子に腰掛ける。

どのくらい時間が経ったのか、ガチャっという音が聞こえゆっくりと扉が開いた。
現れたのはドレスを身に纏った、美しい女の子。

銀色の髪に藍色の瞳を持つその少女を桔梗は以前に見たことがある。
以前と違ったのは無表情ではなく、微かに微笑んでいたことだろう。

けれども、とても友好的とは思えない冷たい笑みだ。




「はじめまして・・・というべきかしら?」

その声は、あちらの世界にいた頃に夢で聞いていた女神の声に間違いはなく。
ゆっくりと近づいてくる少女は、怯えている桔梗に満足している様だった。

「・・・あなたがサルヴィア・ブルーネ・リタン?」

声が震える。
どこから、どう見ても普通の少女に見えるのに、怖がるのは変だ。
そう思っていても、あの夢で感じた不快感と恐怖は消えない。

「あら、私のことをご存知なのね。ジャスティからでも聞いたの?」

一層冷ややかになった口調で、鋭い視線を桔梗にむける。

「ここはどこ?どうして私、こんなところに・・・。」

「ここは私の城。どうして連れて来たのかは・・・わかるでしょう?」

「・・・私を殺すの?・・・なんで?!会った事もなかったのにどうして?!」

恐怖に押し潰れそうになりながら、叫ぶように聞く。

「なんで?決まってるじゃない。貴女だからよ。貴女さえいなければ・・・私が
こんな思いしなくて済んだのに!!」

「意味が分からない・・・私がいたら何だって言うの!?」

「とぼけてるの?それとも・・・ジャスティは貴女に何も話していないのかしら?」

サルヴィアは少し考える仕草をして、笑みを浮かべた。

「いいわ。教えてあげる。貴女の事を・・・そしたら私が貴女を恨む理由が分かる
でしょうから。」











サルヴィアは桔梗の向かい側に座り、手を鳴らすと従者を呼んでお茶を運ばせた。

「ゆっくりお話しましょう。」

そう言って差し出されたが、当然飲む気にはなれない。

「毒なんか入れてないわよ?」

クスッと笑って言われ、自棄になって一気飲みする。

「・・・・それで?何を教えて下さるのかしら?」

桔梗が言うと、サルヴィアは優雅にお茶を飲んだ。

「・・・フェンリルとミロン、シャリートの話は知っているの?」

「知ってる。だからフェンリス王家とリタン王家は仲が悪いんでしょ?でも、私に
何の関係があるっていうの?」

王家でもなく、生まれは知らないが、どちらの国民でもない。

「頭悪いわね。生まれ変わりの話を聞いたのでしょう?だったら、気づきそうなも
のじゃない。」

その言葉にカチンときたものの怒りを抑えてジャスティに聞かされた話を思い出す。





ミロンは狼神“フェンリル”に永遠の愛を誓い、生まれ変わって戻ってくると告げ
た。

狼神“フェンリル”は自分達の子孫として生まれ変わると宣言し、永い眠りについ
た。

フェンリルの生まれ変わりは、2人の子孫であるフェンリス王家に生まれ、シャリー
トの生まれ変わりは、リタン王家に生まれる。




「つまり・・・あなたがシャリートの生まれ変わりなのね?フェンリルの生まれ変
わりは・・・ジャスティ?」

フリードライツの可能性もあるが、そうは思わなかった。


そこまでは分かったが、そこになんで桔梗が関係するのだろう?

サルヴィアは『フェンリルとミロン、シャリートの話』と言ったっけ・・・つまり
ミロンの生まれ変わりも存在するわけで・・・・。


「つまり、私は、・・・・・私がミロンの生まれ変わり?」

否定の言葉を期待して言ったのに、サルヴィアは微笑むだけで否定しない。

「そんな・・・まさか!!」

「私も信じられない気持ちだけど、事実よ。ジャスティが貴女を見つけた・・・・
それがすべてよ。」

「ジャスティが・・・?」



初めてこの世界に来た日。

あの日、ジャスティはなんて言った?

“俺はずっと桔梗を探していた。それが俺の宿命。”


それは、フェンリルの生まれ変わりとしての宿命ということだったのだろうか。



ミロンの生まれ変わりを見つける事が?





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