Poetry of the country which Leviathan influences
--- four ---

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「ミロンの生まれ変わりだから・・・あなたは私が憎いの?・・・殺したいほど?」

ショートしそうな頭で、呆然として呟く。

「そうとも言えるし、違うとも言えるわ。」

「どういう意味?シャリートがミロンを憎んだから、あなたは私を憎むんじゃない
の?」



サルヴィアは立ち上がって、窓の方へ歩きだした。



「最初は・・・憎んでなんかいなかった。会った事もないあなたの事なんて、どう
でもよかった。ただ・・・ジャスティの前にさえ現れないでくれれば良いと・・・
思ってた。」

「私が、ジャスティと出会ったから殺そうと思ったの?」






ジャスティが、あちらの世界に来なければ良かった?

でもジャスティは私を守る為に、会いに来たのではなかった?





「・・・違う。3年前にあの女が死んでから、ジャスティは変わってしまった。」

「あの女?」



この前ジャスティ達が話していた・・・ジャスティの好きだった人?



「あの女のせいで!!・・・でも、あの女が死んだのは、貴女のせいよ!だから
私は貴女も憎い!」

振り向いたサルヴィアは憎しみの眼差しで桔梗を見る。
急に桔梗の体の力が抜け、立つ事も出来ずにソファにもたれかかる。

なんで、と戸惑っている桔梗にサルヴィアの声が降りかかる。


「私はシャリートの生まれ変わりなのよ。神の持つ特別な力も受け継いでいるわ。」





サルヴィアが手を叩くと、夢の時に見たような蛇が現れた。

ゆっくり近づいてくる蛇から逃げたくても、体が動かない。



サルヴィアは無表情に桔梗を見た。
視線が合うと、一瞬だけ悲しそうな顔をしている様に思えた。


けれども、それは錯覚だったようでサルヴィアは無表情のまま部屋の扉に向かって
歩き出す。











そのとき、部屋が緑色の光に包まれれ、眩しさで目を瞑る。


光が消えたと思ったら、叫び声というより奇声という声が響き、恐る恐る目を開く
と目の前で蛇が苦痛で暴れている。

ビックリして後ずさり、そのことで体が動けるようになった事に気がついた。





「キキョー!大丈夫か?!」

声とともに抱きしめられて、体が固まる。

何が起きているのかが分からず、唖然としているとジャスティが心配そうに桔梗の
顔を覗き込む。


「どうした?どこか怪我してるのか?」

その声で我に返って、慌てて首を振る。

「だ、大丈夫。ビックリしただけだから・・・。」

「なら、よかった。すごく心配した。キキョーがどこにもいなくて・・・。」



「ごめんなさい。私・・・何も出来なくて・・・フリージアが!!」

ジャスティの顔を見てホッとしたせいか、涙が溢れて止まらない。

「大丈夫。フリージアは無事だよ。みんなキキョーの事を心配しているんだ。だか
ら一緒に帰ろう。」

ジャスティは優しく微笑むと、桔梗の手をとって立ち上がる。










「なんで・・・ここに・・。」

震えたような声が聞こえて振り向くと、真っ青になっているサルヴィアがいる。


ジャスティは冷ややかに視線を送ると、初めて聞くような冷たい声色で言う。

「俺はキキョーがどこにいようと見つけられるし、この世界にいるならすぐに飛
んでいける。そんな事はこの世界の人間なら誰でも知っている事だろ?」

真っ青で震えているサルヴィアは今にも倒れてしまいそうだった。



ジャスティを怖がっているのだろうか?




「でも、それは・・・条件が整っていないと危険な事だわ。今日は、特に・・・。」

その言葉に驚いてジャスティを見上げると、大丈夫と言うかの様に微笑むんで抱き
寄せられた。

「危険があろうと、なかろうと。そんな事はどうでもいい。キキョーに何かあって
からじゃ遅いんだ!」

心配を掛けた事を申し訳なく思ったが、それ以上に嬉しかった。

「・・・・そんなにその子が大切?」

呟き声が聞こえてきてサルヴィアを見ると、傷ついたような瞳とぶつかる。




もしかして・・・サルヴィアは・・・。




「当たり前だろ。」

ジャスティが言うと、サルヴィアは桔梗を睨む。

「それは彼女がミロンの生まれ変わりだからなの?!」

「関係ない!!キキョーは・・・友達だから。」

抱き寄せる手に力がこもり、困惑してジャスティを見上げるが、ジャスティは無表
情だった。

「関係ないですって!?生まれ変わりだから、私を憎んでいるのでしょう?!」

サルヴィアの瞳から涙が零れ落ちる。

「関係ないって言える?!憎むしか許されないのよ・・・私も貴方も!貴方の姿を
見るだけで、シャリートの怒りを感じるわ!貴方を殺せと、私に語りかけてくる!」

零れ落ちる涙を拭うことなく、サルヴィアは叫ぶ。

「昔は、ここまで酷くなかった・・・でもあの時から・・・。」


ジャスティの体が少し強張ったが、表情は変わらなかった。





「関係ない。俺は・・・憎んでなどいない。」

「じゃぁ、どうして?昔は、そんなに冷たい目で私を見ることはなかったのに。」

サルヴィアは視線を落として、何かに耐えるように服を握り締めている。

「キキョーを傷つける者は許さない。・・・それだけだ。」

「嘘よ!貴方は変わってしまった。私の事も友達だと言ってくれたじゃない!なの
に急に態度を変えたのは、私がシャリートの生まれ変わりだからでしょう?!」

サルヴィアの悲痛な叫びを聞いて、ジャスティは無表情のままだったが、桔梗には
ジャスティが何かを耐えている様に感じられた。




「俺が態度を変えたのは・・・・ただ・・・。」


ジャスティが小声で呟くが、桔梗には何と言ったのか聞こえなかった。





サルヴィアは涙を拭うと、真っ直ぐにジャスティを見つめた。

「私は初めて会った時から貴方が好きだった。ずっと・・・。貴方はフェンリスの
王子で、好きになってはいけない。何度も自分に言い聞かせたけれど、諦めること
が出来なかった。」

涙を流して、それでも毅然とした表情で告げたサルヴィアは綺麗だった。

先ほどまでの怖さが消えて、普通の少女のようだった。

ジャスティは横目で桔梗に視線を送り、すぐにサルヴィアに向き合うと、静かに
告げた。


「俺は生まれ変わりなんて気にしてなかった。神話を否定する気はなかったけれど
それで自分の人生が決められるのは嫌だった。だからサルヴィアの事を憎んだ事は
ないし本当に友達だと思っていた。宿命なんてどうでもいい、ただ・・・キキョー
を傷つけた事は許せない。それだけだ。」




サルヴィアは力が抜けたように、しゃがみ込む。


ジャスティはサルヴィアに背を向け、桔梗の肩を抱いて部屋の窓の方へ促す。



「・・・・・もし、私が彼女に手をださなければ・・・。」


「もし、なんて仮定の話はしてもしょうがない。だけど・・・。」

その言葉にサルヴィアは顔を上げて、ジャスティを見上げる。




「俺はお前のこと嫌いじゃなかった。」


ジャスティは窓の外を見たまま言った。
そして窓を開け、小さく言葉を唱えると桔梗を抱き上げる。


「え?!な、何?!」

「しっかり掴まってて、怖かったら目を瞑ってても構わない。」


ジャスティはそう言うと、そのまま窓の外へ飛び出した。










突風を感じてギュッと目を瞑る。

しかし、落ちるような感覚がしないのと、やがて穏やかな心地よい風を感じたこと
もあって恐る恐る目をあけると、空を飛んでいた。



「え?!と、飛んでるの?!うわぁ、すご〜い!!」

「怖くない?風の精霊に頼んで城まで運んでもらってるんだけど・・・。」

「真下見るのは少し怖いけど、平気。見えないモノレールにでも乗ってる気分だし。
精霊って・・・今も傍にいるの?」

桔梗はあたりをキョロキョロと見渡して聞くと、ジャスティは笑って頷く。

「いるよ。けど、キキョーには見えないかな?特別になんの力もないようだし。」

「そっかぁ、残念だな。でも風の精霊さん。運んでくれてありがとうございます。」

桔梗が軽く頭を下げて言うと、頭を撫でるような優しい風が吹いた。

「どういたしまして、だってさ。お望みなら、もう少し高く早く運べるって言って
るけど?」

「もう少しだけ、早くしてみて欲しいかも・・・ジェットコースターみたいで楽し
そう。」

桔梗がそう呟くのと同時に、スピードが上がる。


けれども恐怖は感じなくて、自分が風と一体になれたかのような感覚が心地いい。






たっぷりと風を楽しんで、今日あった出来事などすっかり忘れた様子の桔梗が、城
についたのは、日も傾いたころだった。






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