Poetry of the help and past poetry
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「どうして自殺なんて・・・。」


フリージアはラティスの胸に顔を埋めて、声を上げて泣いている。


ラティスはフリージアの肩を抱き慰めながらも、グッと下唇を噛んで必死に感情を
乱さないようにと耐えている。


フリードライツはプリムラの亡骸を抱きしめて、声も出さずに泣いている。










ジャスティはそんな3人を眺めていた。


何も感じていないような気がしていた。


大好きな従姉妹が亡くなったというのに、涙も流さずにただ立っていた。








彼女が息を引き取る間際に呟いた言葉が、何度も何度も頭の中で繰り返される。






『・・・ごめんなさい。お願い・・・忘れ・・ないで。私は・・ただ、あなたが。』

















彼女は最後に何を伝えようとしたのだろう。

焦点の合っていなかった彼女が、ジャスティに言っていたのかも定かではない。


疑問には思ったが、今は何も考えられなかった。



彼女の声。

言葉。

表情。

そして少しずつ熱を失っていく体温。



手から砂がこぼれる様に、何かが消えていくような気がしていた。







彼女の葬儀を行っても、まるで自分は人形のように感情なく動いていたような気が
する。

















そんな姿を見かねたのか、ある日フェンリルに呼ばれた。

二人きりの世界は、いつもなら明るく温かいその空間なのに冷たく感じる。


フェンリルは何も言わず、そっと寄り添い側に居てくれた。



フェンリルに抱きつき銀色の暖かな世界に包まれることで、やっと泣く事ができた。


ここでなら、泣く事が許されるような気がしたからだ。
















そのまま泣きつかれて眠ってしまったらしい。

次に目が覚めたときは自分のベット上だった。


ベット横の椅子にはフリードライツが、部屋の隅のソファではラティスとフリー
ジアが座りながら眠っていた。



フェンリルに呼ばれたまま戻らなかったジャスティを心配して側に居てくれたの
だろう。




ジャスティが起きたせいかフリードライツが目を覚ました。



「ジャスティ!良かった。お前まで居なくなってしまうかと思ったんだぞ!」


フリードライツは怒鳴りながらジャスティを抱きしめた。

充血した瞳、震えた声や体がフリードライツの気持ちを物語っている。


その声で目を覚ました二人も、ジャスティの姿を見て安堵の表情を浮かべた。



フリードライツが腕の力を緩めたから、みんなの表情がよく見えるようになる。




フリージアは涙を流し、ラティスはポーカーフェイスを崩して素直に感情を表し
ている。



「心配かけてごめん。」


ジャスティが謝ると、フリードライツは優しく頭を撫でた。


フリージアとラティスは笑みを浮かべ、みんなに知らせてくると言って部屋から出た。












「お前、一週間も意識がなかったんだぞ。一体何があったんだ?」



「俺、逃げたんだ。フェンリルのところへ。」

「・・・・逃げた?」

「うん。現実から逃げたくなったんだと思う。フェンリルは俺が落ち着くまで、傍
 に居てくれた。おれが現実を直視できるようになるまで・・・気が済むまで泣け
 る場所を用意してくれた。」



「泣けたのか?」


「泣けたよ。フェンリルにすがり付いて泣き喚いてきた。」


「それはお前だけの特権だな。神様にすがり付いて泣き喚くなんて普通はできねぇ。」

フリードライツが苦笑する。



「そうかなのかな。フェンリルは俺にとって、家族そのものだから恐れ多いとは思わ
 ないし。」

「そんな風に考えること事態が恐れ多いことなんだけどな。俺にとっても、フェンリ
 ルは先祖にあたるわけだけど、声を聞いてるだけで恐れ多い気分になるぜ。」

フリードライツは肩を竦めて言うと、立ち上がり机に向かって歩き出した。



そして置いてあった手紙を手に取り、ジャスティに差し出す。



「これは・・・?」


表にはジャスティの名前があるから、ジャスティ宛の手紙で間違いないようだけど
差出人の名がない。




「・・・プリムラの部屋にあった。彼女からの最後の手紙であり、遺書でもあると
 思う。」


「最後の手紙・・・。」


「俺にもあったよ。『ごめんなさい。ありがとう。幸せになって』と書かれた手紙が。
 自殺の理由については何も書いてなかった。」


フリードライツはそう言って、手紙を読む邪魔をしないようにと配慮してジャスティ
から離れた。







ジャスティはじっと手紙を見つめ、深呼吸をしてから封を開いた。


見慣れた彼女の美しい字と、便箋から香る花の香り。


ジャスティは一字一句をかみ締めるように、ゆっくりと読み始めた。






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